「占い師のわたしに予言で闘おうって言うの?」
国境を越えてまで恋の相談をしてくる親友に、呆れつつもそう返した。勿論、電波を使ったやり取りに最早国境など無いのだろうし、それはわたしの腕前を買ってくれたという事で良いのだろうか。いいや、正しく言えば金は貰っていないのだが。送った文字にはすぐ既読が付く。続かない文字の羅列をじっと待っていると、思わぬ言葉が追加された。
「っていうか、アンタさ」
「何?」
急に何だ。これが電話なら彼女の声色が変わっているであろう。
「いい加減さ、その口調止めなよ。それ、あの人の口癖みたいなもんでしょ? ほんで、その人の事も忘れて、さ……第一アタシは未だ信じられないんだよ」
アンタが死んだ仲間の店を継いでやってるなんて。もう何度も言われている。親友だけでない、かつての仲間……ポルナレフにも、承太郎にも、ジョースターさんだって反対していた。元々知識があったわけでもない、異国の占い屋。帰国後、必死に語学の勉強をして、カイロの大学に入り、タロットと占星術の勉強も並行してやってきた。店を再開させるまでに5年もかかってしまったけれど、ありがたい事にその時のお客様も、新規のお客様もいる。何も望みは無い……と言えば嘘になる。
「だって……帰って来るかもしれないじゃあないの。その時に自分のお店が無かったら……いや、無いと覚悟しているにしても、変わらずにあったら嬉しいでしょう?」
既読が付くものの、次のフキダシは追加されない。彼女が呆れているであろう事は分かっていた。きっと彼女はこう言う。
「ほんっとしょうがない子」
「そう言う貴女だって、最近しょうがないしょうがないばっかり。憧れの彼の口癖?
第一、彼との相性が知りたいなら生年月日とは言わないから、せめて星座か血液型でも教えて貰ってからわたしに相談なさい」
さっきから彼女が沈黙してばかりだ。わたしが即レスしてるせいもあるかもしれないが。
「アンタが羨ましいわよ」
「そう? 貴女だって異国で頑張ってるのに」
「そうじゃあなくて」
今回はすぐに返事が来た。
「アンタは、報われない恋だなんて思ってないもの」
そろそろ寝る、おやすみという文字列が浮かび上がった。すぐにおやすみと返しても、もう既読は付かない。
「報われない恋だと思ってない、か……」
傍らから見れば、妄信的な女だとは思っている。せめて遺体さえあれば納得しただろうにとも言われた。自分だってそう思わなかったわけではない。でも、今更だった。いつかポルナレフから聞いたように、きっと彼があの店の扉を開けてくれる日が来ると。
「Yes, I amってね……」
彼は一度、蘇りを経験してるのだから。