「寒い……」
買い出しからトリッシュと共に帰宅して、家に入っても変わらないその温度に余計に身体が震えた。
「ヒーター! ヒーター点けましょうよ、今日こそは!」
そう言って、共用スペースのリビングの窓下にある、セントラルヒーティングに駆け寄ろうとする。
「ダメよ、アレックス。まだボイラーの使用許可が出ていないもの。それに、専門業者にガス抜きして貰ってからじゃあないと、ヒーターは使えないわ……」
慌ててわたしを止めるトリッシュの手だって、寒さのせいか震えている。
「どうした? 二人ともそんなところに突っ立って」
「ああ、ブチャラティにフーゴ。今、買い出しから戻ったところよ」
トリッシュが買い物袋を見せると、労いの言葉を掛けられる。ふたりとも、いつも通りの服装だ。よく寒さに負けず、自室で事務仕事などできたものだ。
「いや、すまない。こんなに冷える中、女性ふたりだけに頼んでしまって。他のヤツらが帰って来てからでも良かったな……」
どうも、ジョルノ、ミスタ、ナランチャ、アバッキオは任務で出ているらしい。
「そんなことよりブチャラティ……凄く寒くない!? わたし、いくら行政が、今年はまだボイラー使用許可出してないからって、わたしもう耐えられないッ!!」
「そんなに厚着してるのにですか?」
ぴしゃりと言いのけるフーゴに思わずわたしの青筋がパワーアップしかける。それを見越したように、ブチャラティが穏やかな表情で言う。
「いいだろう、今年は冷える。確か倉庫にデロンギヒーターがひとつあったな。出して来よう」
「ブチャラティ、それなら僕が」
フーゴが、率先して倉庫に向かって行った。極力上司を直接動かさないのは彼らしい。
「そうか、それなら頼む。アレックスとトリッシュ、またこっちの使用にも備えて、業者に点検依頼を出しておいてくれるか」
セントラルヒーティングのガス抜きだろう。勿論、首をコクコクと縦に振る。業者の電話番号はちゃんとファイリングしてあったはずだ。そうこうしているうちに、フーゴがデロンギヒーターをゴロゴロ転がして登場した。スイッチが入れられると、すぐさまわたしとトリッシュは近くを陣取る。すぐには暖かくならないかもしれないが、何となく既に暖気が漂っている気がする。
「ただいま戻りました」
「あッ、デロンギが出てるゥッ」
「チェッ、もうアレックスとトリッシュが陣取ってやがんのかよ」
そこに入って来たのは、ジョルノ、ナランチャ、ミスタだ。後からアバッキオも無言で入って来る。どうやら任務を終えて来たらしい。
「しっかし冷えるよなァ、俺寒いの苦手でよォ、俺も当たらせてくれよォ」
ミスタはそう言ってわたしとトリッシュの間に割り込んで来る。トリッシュがムッとした顔をするが、続いて近づいてきたナランチャにはさりげなく隣を譲っている。そして、振り返っている様を見れば、どうもブチャラティをも気にしているらしい。彼はそんなことには構わず、ヒーターから離れたダイニングテーブルで、アバッキオからの報告を聞いているが。
「まったく、人に持って来させといて、一言の礼も無くコレですか……」
「悪ィな、フーゴ! あ、ジョルノ、てめェそこは一番暖かいトコだぞ!」
「? そんなつもりは無かったんですが……空いていたので……」
ああ、なんだかせっかく暖かくなったのに面倒くさいことになりそうだぞ……?
「コラ、喧嘩すっならブチャラティに仕舞うように言うぞ」
遠目に見ていたはずのアバッキオが近付いて来て、全く助け舟にならないことを言いだす。
「待ってそれだけは勘弁して……ナランチャ、こっちの方がぬくいから!
アバッキオも……ブチャラティも当たらないのォ?」
「お前、本当に分かりやすいヤツだな……」
躊躇いがちだったアバッキオも輪に加わり、そのアバッキオに呼ばれたブチャラティもヒーターを囲む。
「なんか……もうセントラルヒーティングじゃあなくて、こっちで良い気がしてきた……壁に取り付けのセントラルヒーティングだと、皆で囲めないし」
「どこがですか、アレックス。これじゃあ誰も仕事になりませんよッ。混まない内に点検の予約をしておいてくださいッ」
最後にフーゴにキレられてしまった、やれやれ……。
FINE.