「なんとか手に入れられましたね」
「ああ」
巨大な鉄の塊を前に、彼女が満足げに言いのけた。勇んで私の方を振り向いた余り、彼女の頬の横の髪がぴょこりと跳ねる。
「もう、出発するんですか? 今、ジョースターさんたちどの辺りですかね!?」
「あ、ああ……」
さっきから『ああ』としか相槌を打てていないことに気が付く。まったく、なぜこんなに浮かれているのだろうか。
確かに、これからジョースターさんたちをこれに乗って追うことになるのだが……つまりは、これまで宿では別室で過ごしていた彼女と、狭い鉄の鯨の中、共に過ごすことになるのだ。
ここは屋内ではあるが、時計を見れば日没はもうすぐで、聖なる夜はすぐそこだ。異教徒の私が言うのも何だが、そんな夜であると言うのに、この邪な情は消える気配も無い。
私がホル・ホースの銃に撃たれて死に、葬られたことを装うと、彼女も共に負傷したていで離脱した。暫しの療養の後に入院先の病院を抜け出し、二人で潜水艦入手に向けて動き出してからもう十日ほど経つ。その間に、私は彼女の一挙手一投足に目が離せず、それ程に彼女は心奪われる存在へと変貌してしまったのだ。
「っ、アレックス……」
彼女の名前を呼ぶ声までもが上ずってしまう。
「出発は……明日にしよう」
「え、せっかく買ったのに? いいんですか? 五十日しか時間が無いのに」
「ああ。SPW財団を通してジョースターさんたちに連絡を取ろうとしているが、上手く連携が取れないみたいだ。勝手に出発するとそれはそれで危険だからな」
「そうですか……それでしたら、アヴドゥルさん」
何かを思いついたような彼女は、思いがけないことを言ってきた。
「今日……これから出掛けたいんですけど、付き合ってくれますか?」
「な、なにッ……!?」
「あっ、その、そういう意味じゃあないですよ……?
あの、いくらわたしがスタンド使いだからって、女性一人で出掛けたら反対するでしょう? ですから……」
突如顔を真っ赤にした彼女を前にし、何を勘違いしているのかと自分を叱咤したくなった。しかし一方で、こんな彼女も珍しいと思った。
「もう日没でしょう……クリスマス・イブですよ。教会にね、行ってみたいんです」
「教会!? 君は……信者だったのか?」
こんな所に教会があっただろうか。第一、この国はほとんどがイスラム教徒のはずだ。
「ありますよ。教会はどこにだって。
アヴドゥルさんの祖国なんて、イエス・キリストが滞在してたこともありますよ。あと、インドだってマザー・テレサがいるじゃあないですか」
そう得意げに言った後、さっき十字架の掛かった尖塔が見えたんです、そう彼女は微笑んだ。
「しかし、私は異教徒だ……」
「誰だって入れますよ、教会は。信者じゃなくても、誰にでも開かれてるので」
あっけらかんとしている彼女に、了承するしか無かった。
しかし、また一つ彼女の一面を知ることができた。悪くはないだろう。勿論、誰でも入れる場所ということは危険も伴う訳だが……。
「アヴドゥルさん、気を付けてくださいね」
DIOの手下たちに気付かれでもしただろうか。思わずそう答えようとしたが。
「今夜教会は、蝋燭の火を使いますからね。スタンドはしまっておいてくださいね」
クスクスと彼女が笑う。何だそんなことかと言い掛けて、私はグッと言葉に詰まった。彼女の言っていることは、図星だ。
――こんなに君に、すぐに熱くなっている私だ。神聖な場を守りたいが……絶対とは言いかねるな……。
FINE.