この間から、なんだか街のショーウィンドーが華やかな気がする。赤を中心としたそれに、そっと自分の顔が映る。自らの吐息で霧掛かったそれが晴れ渡れば、奥にあったのは、大きなハート型をしたプレゼントボックスだった。それが沢山重ねられた上に、『Felice San Valentino』の白い文字のオブジェがぶら下がっている。そして、このようなディスプレイを行っているのは、この店だけではない。おかげで、どこか街全体が赤っぽい。
「ったく、どこか浮かれてやがるよなァ……お前もか?」
隣を歩くミスタが、わたしが店に目を向けていることに気付いたのか、からかう。
「まさか。相手もいないのは貴方も知ってるでしょう」
ミスタの方を見ないでそう言い放つ。本当は違う。今だって任務の帰り、こうやって二人で街を歩けることが内心嬉しくて仕方がない。
「そーかそーか。いないのか」
「そーよそーよ、だから、自分に可愛いチョコレートでも買っちゃおうかなァって」
言っていて悲しくなるけど、それは顔に出さないように頑張る。
「チョコでいいのか?」
少し驚いたようにも見えるミスタの声は弾んでいる。すると、わたしの手を取り、引っ張っていく。向かった先は……先ほど見ていた店だ。
「ちょっ、ミスタ! 何するの?」
「何って見りゃ、分かるだろう」
あれよあれよという間に、ミスタはバレンタイン用のチョコレートギフトを買ってしまった。店員が気を利かせてか、プレゼント用に一輪の赤いバラを添えてくれる。
店を出ると、ミスタはそのままわたしを公園へ連れだった。ギフトボックスに添えられたバラを宙に掲げて、くるくると回転させる。夢主、とそのまま名を呼ばれた気がした。目の前に、そのバラをパッと差し向けられる。
「どこに行こうとも、これから見るもので一番キレイでよォ……甘ったるくて美味いのも……いつも、お前だけだぜ」
わたしは、これをどう受け取ればいいのだろうか。
FINE.