Buona notte【ミスタ】

 目の前に闇に染まった天井の景色が広がる。

 良い夢を……と言われたのにもかかわらず、何も夢は見なかった気がする。夜中に目が醒める度、せめて悪夢は夢の中にしておいて欲しいと何度思ったことか。

 案の定、隣で寝ていたはずの彼は、シーツの皺と枕に跡だけを残してもうそこにはいない。闇に目が慣れて来て、常夜灯に照らされた椅子には、無造作に掛けられていたはずの彼のセーターがなくなっている。

 そのタイミングで、まるで分かったかのように、ブルルと携帯電話が震えてメッセージが表示される。

「Buona notte.仕事が入っちまった。また明日な❤」

 ああ……やっぱり。朝まで目覚めない方が良かった。

 でも、分かっていた。共にベッドに入ってもわたしに触れることなく、なのにどこか上機嫌。仕事なワケ無い。

 バールで飲むのか、そこで女の子と喋るのか、それともクラブで踊るのか……そういったことが楽しみで仕方ないんでしょうね。そんな様子を見せつけられて、わたしが安眠できるとも……?

 そして、きっと貴方は明日、こうしか言わない。

「悪ィ悪ィ。昨日だけだって。大目に見てくれって。
 今度あのカッフェのドルチェでも食いにいくか?」

 わたしの好きな少年のような笑顔で、そう言われちゃあたまらない。

――わたしは結局、貴方をやめられない。

FINE.