「今どこなんだ?」
「家よ、ブローノったら本ッ当に心配性なんだから」
マジで言ってるのか?
俺と会っている時よりも、ずっとずっと声が上ずった声が、携帯電話からのみ聞こえてくる。
――俺は今、君のアパートの部屋の前にいるんだぞ!? 部屋の電気も消えているし、エアコンの室外機も動いていない。本当に君がここにいるなら、ドアの隙間から君の声が漏れてくるはずなんだ。
そう言おうとして、止めた。
「そうか……またな。おやすみ。」
そこで終話ボタンを押してしまった。本当は言いたいことがあった。
夕方、早くに事務作業を終えた君を追って、俺も少し遅れてリストランテを出た。久々に夕食でも一緒にどうだ……残りの仕事は夕食後にするから。そう言おうとした。
すると君は、そんな俺にも気付かず、知らない男に駆け寄って、腕を組んでいるじゃあないか。
俺が普段から仕事に忙しく、急な予定変更も多くてデートの予定が流れてしまっているにしてもだ。最近どうしてこんなに俺から君に会えないことが多いんだ。まるですれ違いだ。今まではこうじゃあなかった。いつも俺を待っててくれたんじゃあ無かったのか。
最近君は変わったと思う。
任務の合間、リストランテで待機しているときも、暇さえあれば携帯電話を見ている。
それは、明らかに任務の際の険しい顔つきではなく、いつも俺に向けてくれていたような、あの夢見るような表情だ。メールを打つ前後に、いつもキョロキョロ辺りを確認していることだって知ってる。俺の前ではその前後左右確認も役立っていないようだがな。
――俺の、我儘なのか……? 好きだと伝える前の、君を遠くから見て満足していた頃の俺に、戻るべきなのか?
十代はじめでこの世界に入ったこの俺が……明日死ぬかもしれない、そして弱みを知られてはいけないはずの俺が、君と関係を持つこと自体、許されているかと言えば微妙だ。
そして、君に全てを捧げることは不可能だ。
もはや君も来なくなり、夜独り寝るだけとなっただけの家へ向かっていると、雨が降り始めた。とことん嫌になる。父さんの葬式の時も、こんな雨だった。俺はまた雨の中で、誰かを見送るのか?
――ブローノ! どうしたの、ずぶ濡れじゃあない! 傘持ってなかったの!?
ああ、そう言ってタオルを持って駆け寄ってくれた君さえいれば。それだけで、雨も嫌いにならないで済みそうなのにな。
――なあ、もう一度、俺の方を見てくれないか……?