Sweet smile - 1/2

思わず立ち止まって、それを見てしまった。だが、すぐに振り払うように首を振る。柄でもない。こんな筋肉隆々の大男がじっくりと見るものではない。

それに、また囚われてしまいそうで怖かった。いつか、敵のスタンドによって高校時代に閉じ込められてしまったような、あの懐かしさや高揚感が自分の中に甦って来そうな気がして、慌ててそれを留めた。

――そういえば、どうしてるんだろう……マグダとアドリアーナ……。

ふと、高校時代の親友たちのことを思い出す。親友と言っていいのだろうか、分からないが。
警察官の夢を応援していてくれていた彼女たちだったが、結局自分が事件を起こしてしまってから、一度も会うことはなかった。結局ブチャラティを始めとしたパッショーネの圧力で無罪にはなったものの、面接に通る為に身体を売ったと、街中で尾ひれがついた形で知れ渡った。結果、高校は自主退学するしかなかった。親さえ見放した。彼女たちも、同じように思っているのか……そうではないと信じたい。そう思いながら、そこを通りすぎようとしたときだ。

「どうした? 道の真ん中でボーッと突っ立てんじゃねェぞ」

ふと背後から声を掛けられて、肩を震わせてしまった。

「アバッキオ。いつの間に来てたんだ……」

確かにここはリストランテの近くだ。任務帰りに通り掛かってもおかしくはない。

「何だ? サンデーのポスターなんか見てやがったのか」

「いやっ、これはっ、そのっ……」

そう、見ていたのはカフェの季節限定ビッグサンデーのポスターだった。
高校時代、マグダとアドリアーナと一緒に、巨大なサンデーをお喋りしながらつついたことがあったのだ。それを懐かしく思うと共に、公然と甘いものをカフェで食べることができなくなった現実に、ちょっぴり寂しさを思えてしまっただけだ。

「お前、もう今日は仕事終わったな?」

「あ、ああ……?」

アバッキオはあたふたする自分を問い詰めることなく、そう尋ねる。微妙な答えを返してしまったが、それを聞くや否や、来いと言ってさっさと歩き出してしまった。
急にどうしたんだと追い掛けると、アバッキオは人気の無い裏路地で振り返った。

「戻れ」

「は?」

「スタンドを解け。さっきのカフェに戻るぞ」

――いやいやいや……!! 何を仰る!

唖然として固まってしまった自分を、アバッキオは早くと急かす。よく見れば、いつもの無表情であるようだが、耳が少し赤く染まっているし、さっきから視線を合わせてくれない。

「素が気になるなら、変身でも変装でも、お前の好きな姿で行け」

その言葉に、アバッキオなりの気遣いが感じられて、身体と目が熱くなった気がした。そう思ったときには、腕も細くなり、視線も段々下がっていって、素の自分に戻っていた。

「ありがとう、アバッキオ」

「行くぜ」

照れ隠しに先に行ってしまったアバッキオの背中を見て、笑いそうになったのを引っ込める。男の姿でサンデーを食べるのを躊躇ったわたしに、あのアバッキオが付き合ってくれるんだもの。

「デケェ。甘い……」

店員によって持ってこられた巨大なサンデーをひとすくい食べて、そうアバッキオは漏らした。

「お前、コレを3人で食ったのか……女子高生ってのはバケモンだな」

注文後、待っている間に、アバッキオは学生時代の話を黙って聞いてくれた。クリームが甘ったるいのか、添えられたフルーツをスプーンで掬おうとしている。無表情な大男と巨大サンデーの隣り合った光景はなかなか見られないのか、店員も他の客も興味深そうに視線を送ってきている。

「チッ、見せ物じゃねェぞ。早く食って出ようぜ」

「う、うん……アバッキオ、ごめんなさい」

自分も先程笑いそうになったのを心から反省した。思わず謝罪の言葉が漏れる。

「それは違うな」

「え?」

「謝られるために来たんじゃねェ」

アバッキオは相変わらずサンデーをスプーンで弄びながら、こちらを見ずに言う。

「じゃあ……ありがとう」

おう、とだけ返ってきたが、その口の端が上がるのに気付いて、ちょうど口に入れたチョコレートの甘みが広がっていくのが分かった。

そこからは、溶けゆくサンデーの倒壊とのフードファイトを何とかこなした。

FINE.